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「確率論的思考」 田渕直也 [Book]

堅苦しい理論本ではなく、投資のノウハウ本でもありません。

ファンドマネージャーが云々という副題のせいで、投資に絞った内容かと思われるかもしれませんが、もっと広範な内容で、平明な文章ながら、内容はかなりの読み応えです。

投資に縁のない方でも、たとえばビジネスの実務や日々の政治経済のニュースを通じて、
因果論、二元論、結果論、努力万能論などに、なんとなく違和感を感じ続けている方は多いでしょう。

私もその一人です。

実際、本書の中にも出てくる、ラプラスの悪魔の話は、これまでの会社生活の中で、たびたび考えたことがありました。
単純な善悪の区分け、結果と原因の考え方、極度な単純化、過度な一般化は、たしかに実社会では有効に機能することも多いです。しかし、そうではないこともある。

このへんの話を、これほど分かりやすく説明してくれた本は、これが初めてで、長年のモヤモヤが晴れた思いがしました。

実際に投資をやっている方はもちろん、そうではない方も、本書のプロローグをちょっと見てみて、少しでも引っ掛かるものがあったら、是非おすすめします。

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「トヨタ伝」 読売新聞特別取材班 [Book]

2006年(平成18年) 新潮文庫

「豊田市トヨタ町一番地」 2003年(平成15年)を改題。

2008年は、ホンダのF1撤退、スバルのWRC撤退、そしてトヨタの”労働力調整”の年として、長く記憶されると思います。

この本を読んだのは一昨年くらいで、今回久しぶりにパラパラと読み返してみました。

私のような部外者にとっては、トヨタと豊田家の繋がり・歴史など、かなり参考になりました。ただし、裏ページや帯にあるように、これが「トヨタ研究本の決定版」とは思いません。

リーマン・ショック以前のことですが、この本にも登場する奥田元社長・元経団連会長が、”毎日毎日、年金問題ばっかりやってる番組のスポンサーからは降りてやろうかと思う”、という発言をしていました。

最近の報道でも、取り上げられるのはキャノンやいすづが圧倒的に多いと感じています。テレビ・新聞の報道よりも、ワイドショーの方が大胆に(ふつうに?)、トヨタ・ショックという言葉を使っているのではないでしょうか。

私が、この本が「決定版」ではないと思う理由は、なんというか、マイナスの部分には触れていないからです。なので、トヨタ社史の小説版を読んでいるような感じもします。

 


タグ:企業 自動車
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「歳月」 司馬遼太郎 [Book]

佐賀の江藤新平。

明治新政府で参議、司法卿。まもなく、薩長閥(特に大久保利通)と対立して下野、佐賀ノ乱の首謀者として刑死、享年四十一。

アルイハ、狂人カ、と言われると、 「古来、事をなした者はことごとく狂人とよばるべき者である」と答えたという、才能と狂気の男の話です。

”(まるで抜き身だ)とおもった。副島はかねがね江藤に対し、鞘を脱した白刃を腰にさした男、という実感をもっていた。むきだしの鋭さが、他人をたおすよりさきに自分の身を傷つけるのではあるまいか。”

似たものどうしというのは、特に二人共に才能がある場合は、互いに相容れず、決して並び立たない。大久保利通と江藤新平は、そういう関係として描かれています。

明治新政府に不満な士族が充満し、ひと騒動ありそうな佐賀に、 「峠」にも登場した岩村高俊が権令(知事)として派遣されます。任命したのは大久保利通。

木戸孝允は、どうしてこんな難しい所に、選りによって岩村高俊のような傲慢で無思慮なやつを・・・と驚き、人事の変更を求めます。

大久保は、そんなやつだから使うのだ、という腹でした。

つまり、越後長岡で河合継之助を開戦に追い込んだ、岩村の傲岸不遜・無思慮ぶりを見込んだのだと。佐賀士族を挑発し、暴発させ、江藤もろとも早々に殲滅するには、これでいいのだと。

対するのは、維新前は「家の中で内職をしているか、藩命によって蟄居させられているか」で、「世間を知らないにひとし」く、「維新が成立し、かぞえて三十五になってから人臭い世の中におどり出、わずか五年目に司法卿になった」という江藤。

そして、事態は大久保の目論見どおりに進みました。

小説としては、江藤の短い活躍期間の最後、下野から刑死までの部分に重きが置かれすぎているかもしれません。人間の死に方、死に至る状況と、そこから遡ってみた人生、という風景。

その、あまりにも政治・政略的な騒ぎに満ちた最期と、田舎からぽっと出てきた男がわずか五年の間にやったこと、仕事の凄さ部分は、少し切り離して考えてみたい気がしました。

上下二巻、講談社文庫。


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「桜田門外ノ変」 吉村昭 [Book]

茨城県には伝説が二つあります。

江戸時代初期、佐竹氏が秋田に転封されるときに、きれいな人をみんな秋田に連れて行ってしまった。茨城県(常陸の国)に美人が少ないのはそのせいだ、というもの。
(だから秋田美人はもともと茨城の・・・というオチです)

もう一つは、まじめな話で、
維新のさきがけとして活躍した人物を何人も輩出したのに、最後は薩摩と長州にすべて持っていかれてしまった。
それは、幕末の早い時期に暴発しすぎて優秀な人間がみんな死んでしまったからだ、というもの。

司馬遼太郎氏もどっかで書いてましたが、これはかなり本当のことだと思います。

その最初の大暴発が桜田門外の変でした。
この作品、「桜田門外ノ変」は、水戸藩側から見た、有名なわりに詳しくは知られていない、幕末の大事件を描いています。

襲撃計画から実行の場面は、現代のテロの現場を目前にしているような迫力。

襲撃後の水戸藩士たちの逃避行の部分は、「彦九郎山河」、「長英逃亡」のような感じで、作者得意の描写が淡々と丹念に続きます。

水戸藩士の最後の暴発となった天狗党の乱については、「天狗騒乱」があります。
これもまたすごい作品なので、そのうち紹介するかもしれませんが、併せてお薦めです。

映画化の計画


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「箱根の坂」 司馬遼太郎 [Book]

『箱根の坂(上)(中)(下)』 講談社文庫、1984年。

上巻は、前半生がほとんど分からない早雲の京都時代を通して、室町時代、応仁の乱の話が続きます。

「すでに、のちの世で言うところの応仁の乱が進行している。
 いつはじまり、いつ終わったかということもないこの大乱には、主役がない。
 正義も名分もない。
 意味もなかった。・・・」 (上巻)

室町時代後半~応仁の乱を描いたものは少ないので、この部分も面白かったです。


作者は、早雲を、権謀術数を駆使した下克上の先達としてではなく、禅僧のように質素で地味な性格として、淡々と描いています。
たとえば、以下のような独白をするくらいなので、この作品では、めずらしく女っ気は殆どありません。

「もともとは一介の書生か、風来坊で人生をすごすつもりであった。理由はない。ただ、妻子を持ち、夫とか父とかよばれる男どもを見て、心に染まず、転し(うたてし)と思い、ときに見苦しいとさえ思ってきた。」(中巻)


早雲が、駿河に下向して興国寺城の城主となったのは四十五歳、小田原城と西相模を得たのが六十四歳、八十七歳で相模全円を平定し、翌年に病没。

八十を過ぎてからも戦陣に立っていたことになるので、生年については諸説あるようですが、
世に出てから四十年以上働き、待ち、また働き、しかも終わりを全うしたという点は間違いないようで、これだけでも類をみない存在なのではないでしょうか。
乱世の奸雄というくくりではなく、もう少し歴史的にきちんと評価されていい人物なのかもしれません。

小説としては長いですが、引っかかることなく、すんなりと読める話です。室町、戦国時代に興味がある方や、静岡・神奈川に土地勘がある方は特に楽しめると思います。
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「水戸光圀」 山岡荘八 [Book]

幕末ものを読んでいると、水戸学、大日本史という言葉がたくさん出てきます。
その卸元になったのが、水戸藩第二代藩主、家康の孫の水戸光圀。

テレビの水戸黄門以外に、何かないものかと思っていて、この本を読んでみました。

徳川綱吉との対峙、水戸藩内のお家騒動に、若侍と娘たちの駆け落ち騒動などなど、水戸黄門漫遊記というのは、なるほどこういうものか、と思いました。全体的に安心して読めます。

実は山岡荘八は初めてでしたが、予想以上に読みやすかったです。吉川英治に入り込めなかった私でも大丈夫でした。

山岡荘八歴史文庫はちょうど100冊あって、「水戸光圀」は69の番号が付いてます。
いちばん長いのが有名な徳川家康(全26巻)。そのうち読んでみようか、と少し思いました。

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「背信」 ロバート・B・パーカー [Book]

スペンサー・シリーズ第31作。原題は「Bad Business」。

冒頭から、いつもの調子で"Tough, but sensitive."と自己紹介するスペンサー。

今回は、もろにエンロンがモデルの大企業の重役とその奥さんたちがバタバタと入り乱れる話。登場人物もかなり多くて、全体に分かりやすくはないですが、いつものメンバーたちの活躍は十分楽しめます。

州警察のヒーリイ警部は、第二作の「失投」からの長いつきあい。
殺人事件の現場でスペンサーと顔を合わせる場面。

The car door opened and Healy got out.
"Evening, Captain."
He looked at me for a monent.
"Oh shit," he said.
"Oh shit?"
"Yeah. You're in this."
"So?"
"So that means it'll be a fucking mess."

おまえが関わってるってことは、とんでもなく面倒な事件ってことか・・・。


ある女性に、ヴィニイ・モリスをボディ・ガードとして紹介する場面。

"Is he ...? Can he really protect me? He's not big like you."
"It's Vinnie's position," I said, "that big just makes a better target."

「彼が・・・?私を守れるの?彼はあなたみたいに大きくないわ」
「身体が大きいのは、いい標的になるにすぎない、というのがヴィニイの見解だ」


今はシリーズ34作目の「Now and Then」のペイパーバッグが届くのを待っているところです。
「Bad Business」の次の「Cold Service」と「Dream Girl (One Hundred dollar Baby)」が少し暗い感じだったので、次はどんな話になっているか楽しみです。
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「東寺の謎」 三浦俊良 [Book]

”物の興廃はかならず人に由る。人の昇沈はさだめて道にあり。”

儒教の星、道教の月、仏教の日をあきらかにする総合教育。
身分に関係なくだれでも学べる学校。
学費は無料。

綜芸種智院(しゅげいしゅちいん)。
当時の社会常識からすれば、まったく考えられないような学校です。

お考えは立派だが、そんな学校を作ったところで、とうていうまくいかないでしょう。
そう言う人たちに、その人はこう答えて、協力を求めたそうです。

「物の興廃はかならず人に由る。人の昇沈はさだめて道にあり」


それから千二百年ほど経った昭和30年代。
東寺高校(現在の洛南高校)の再建のために、この本の作者は奔走します。しかし金がない。
時は経っても、その人の弟子たちは明快でした。

”国宝とは古くは人をさすことばであった。人こそ国の宝であると、わが国では認識されていた・・・。
空海は国宝にしようとおもって寺宝を残したのではないだろう・・・。人は国の宝である。ならば国宝を売って国宝をつくろう。”


この本、私は古本屋で偶然手にしましたが、東寺の講堂の奥の売店にもありました。
平成13年、祥伝社黄金文庫。
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「苦悩の旗手 太宰治」 杉森久英 [Book]

河出文庫、1983年。初出は1967年(文藝春秋)なので、太宰が没してから約20年後の作品。
編集者時代の杉森久英が、これほど太宰治と関わりがあったとは、この本を読むまで知りませんでした。

太宰の三鷹の自宅に原稿依頼に行く場面。

”・・・たとえば芥川賞がほしいために、佐藤春夫に毎日嘆願状を出したり、菊池寛に土下座したりするような男だという世間の評判をききかじっていたので、くだらない男だという先入観をもっていた・・・”

”はじめて会った太宰の印象は、まさしく私の先入観を裏づけるようなものであった・・・それは見方をかえれば、彼の心の繊細さ、やさしさ、感じやすさを物語ってもいるわけで、それこそ太宰の一番貴重な宝だったはずだが、そのときの私には、そうは映らなかった。”

初対面の太宰の、”上級生が下級生に対するような”、”妙に物を教えるような態度”に、杉森は反発を覚えます。
昭和14年、太宰29才、杉森26才。
このときの原稿が、あの「駆込み訴え」でした。

そして、志賀直哉が、「斜陽」の主人公の言葉遣いはおかしいと言い、それに太宰が”狂気のように食ってかかった”有名な事件。
そのきっかけになった座談会は、杉森が「文藝」の編集者として担当したものでした。
その後まもなく太宰は自殺。

太宰の生涯を追う正統派評伝としての部分と、作者のいわば贖罪に近い思いが感じられる私小説のような部分。その二つが混ざり合って、他の杉森評伝作品とはまったく違う作品になっています。
坂口安吾の「不良少年とキリスト」(角川文庫「堕落論」所収)と並んで、太宰ものの双璧を成す作品だと思います。

太宰 治 1909年6月19日 - 1948年6月13日(38)
杉森 久英 1912年3月23日 - 1997年1月20日(84)

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「司政官 全短編」 眉村卓 [Book]

「司政官全短編」、創元SF文庫、727ページ。

70年代に発表された「司政官」、「長い暁」の2つの短編集を一巻本にまとめたもの。およそ20年ぶりに読みました。
東京創元社の蛮勇(?)に拍手を送りたいです。

司政官シリーズの長編は、 「消滅の光輪」、「引き潮のとき」の二つ。
「消滅の光輪」は泉鏡花文学賞、星雲賞の傑作。
「引き潮のとき」は、80年代のSFマガジンに延々と連載されていた長編で、実は途中までしか読んでいません。ハヤカワ書房から文庫本で出た記憶もなし。「司政官全短編」のあとがきを読むまで、未完のままかと思っていました。

今回再読してみて、SFという道具立てでしかできない、独特の世界の面白さを改めて感じました。
ただ、あれから20年以上経って、書店のSF関係の書棚が狭くなっている現状は、正直少し悲しいです。この本のような、上質の大人の物語がもっと読まれるようになってほしいと思います。

SFは、たしかに読者を選ぶ?ジャンルかもしれませんが、それは純文学だってそうなので、まずは触れる機会があるかどうかではないでしょうか。

アマゾンのレビュー欄にも、三人の方が詳しくコメントを書いていますので、参照してみてください。


眉村卓といえば、映画『ねらわれた学園』(1981年 薬師丸弘子)の原作に代表される、学校を舞台にしたジュブナイル小説もたくさん書いています。
一番好きな作品は、「ねじれた町」(1974年出版。2005年に青い鳥文庫にて復刻) 。今読んでも新鮮で面白いです。

司政官シリーズの母体となった、初期の作品には、「産業士官候補生」、 「EXPO'87」という作品があります。
これら一連の作品が、SFなのか、いわゆる文学なのか、たとえば文学史的に認知されているか、そんなことは実はどうでもよくて、そこに書かれている人間たちの姿や思いを読者がどう感じるかが全てでしょう。今の時代に、是非再販して欲しい作品です。

創元社さん、これからも期待しています。


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