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「確率論的思考」 田渕直也 [Book]

堅苦しい理論本ではなく、投資のノウハウ本でもありません。

ファンドマネージャーが云々という副題のせいで、投資に絞った内容かと思われるかもしれませんが、もっと広範な内容で、平明な文章ながら、内容はかなりの読み応えです。

投資に縁のない方でも、たとえばビジネスの実務や日々の政治経済のニュースを通じて、
因果論、二元論、結果論、努力万能論などに、なんとなく違和感を感じ続けている方は多いでしょう。

私もその一人です。

実際、本書の中にも出てくる、ラプラスの悪魔の話は、これまでの会社生活の中で、たびたび考えたことがありました。
単純な善悪の区分け、結果と原因の考え方、極度な単純化、過度な一般化は、たしかに実社会では有効に機能することも多いです。しかし、そうではないこともある。

このへんの話を、これほど分かりやすく説明してくれた本は、これが初めてで、長年のモヤモヤが晴れた思いがしました。

実際に投資をやっている方はもちろん、そうではない方も、本書のプロローグをちょっと見てみて、少しでも引っ掛かるものがあったら、是非おすすめします。

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正気と報酬の関係 [Nikki]

日経新聞の「大機小機」というコラムから。

"米企業のガバナンスの弱点"
・・・
報酬があるレベルに到達するまでは大抵の人間は正気を保てる。
基本年収が2000万円の人が100万円の追加報酬を提示されても、法律に反する可能性のある不正行為をする人は多くないだろう。
しかし1億円の追加報酬を提示されると、判断が危うくなる人が多いのではないか。
・・・

金融関係ではありませんが、私は外資に勤務していたことがあります。
特にマネージャーになってからは、日本企業では考えられないような、いろいろな体験をしました。

「報酬があるレベルに到達するまでは大抵の人間は正気を保てる」

これはまさに正鵠、です。


”目の前に1億円積まれても断れる人間になれ”、と言ったのは、故・大西鉄之助(早稲田ラグビーの指導者)さんでした。
「知と熱」という本です。残念ながらすぐ見つかりそうにないので、これについてはまた後日。

President's Radio Address [eigo]

The West Wingでも、バートレット大統領がラジオ演説の録音をする場面がありました。

もうすぐ二期八年の任期が終わるブッシュ大統領の、クリスマスのラジオ演説が、いかにも・・・という内容だったので、ちょっと紹介します。

オバマさんに代わったらHPも刷新されるので、過去の分を見たければ今のうち。題名だけ眺めるだけでも、この八年の流れがわかって面白いと思いますよ。
http://www.whitehouse.gov/news/radio/index.html#y2008

President's Radio Address, Dec. 23 Christmas

Good morning. This week, millions of Americans gather with loved ones for Christmas. This is a season of hope and joy. And it is an occasion to remember a humble birth that has helped shape the world for more than two thousand years.
One of the things that makes Christmas special is that it allows us to step back and take stock of what is truly meaningful in our lives. As years pass by, we often forget about the gifts and the parties, but we remember special moments with families and friends.

メリークリスマス・ライクな挨拶はこれでおしまい。全体の1/5くらい。
この後はずっと、なんだかな・・・という内容なので、ところどころ引用します。

This year, as you spend time with those you love, I hope you'll also take time to remember the men and women of our armed forces. Every one of them has volunteered to serve our Nation. And with their incredible sacrifices, they preserve the peace and freedom that we celebrate during this season.

クリスマスの間も戦っているアメリカ軍の兵士がいる、彼らの犠牲の上に平和で自由なクリスマスがあることを思い出して欲しいと。

This tradition of service is as old as our Nation itself. In 1776, it looked as if America's first Christmas as an independent Nation might also be its last.
・・・
That miracle took place on Christmas night, 1776. George Washington planned a surprise attack on the enemy forces camped across the Delaware River in Trenton, New Jersey.
・・・

ワシントンがイギリス軍に奇襲を掛けて勝ったのが1776年のクリスマスだと。

Two hundred and thirty-two years have passed since George Washington crossed the Delaware. But on this Christmas, his legacy lives on in the men and women of the United States military. Some of them are spending this holiday helping defend emerging democracies like Iraq and Afghanistan.
Others are spending it in lands where we defeated tyranny long ago, such as Germany or Japan.
・・・

232年後も伝統は受け継がれ、今アメリカ軍はイラクとアフガニスタンで戦っていると。
ドイツや日本のtyranny(専制・圧制)を打ち破ったように、民主主義のために。

・・・
Defending freedom is a full-time job. Our enemies do not take holidays. So the members of our armed forces stand ready to protect our freedom at any hour. For their service, they have the thanks of a grateful Nation -- this Christmas and always.

Thank you for listening.

これで終わりです。
この、"Our enemies ..."あたりが、得意のキメ&シメの文句ですね。

なんだかもう、やれやれ、という感じです。


そういえば・・・


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「トヨタ伝」 読売新聞特別取材班 [Book]

2006年(平成18年) 新潮文庫

「豊田市トヨタ町一番地」 2003年(平成15年)を改題。

2008年は、ホンダのF1撤退、スバルのWRC撤退、そしてトヨタの”労働力調整”の年として、長く記憶されると思います。

この本を読んだのは一昨年くらいで、今回久しぶりにパラパラと読み返してみました。

私のような部外者にとっては、トヨタと豊田家の繋がり・歴史など、かなり参考になりました。ただし、裏ページや帯にあるように、これが「トヨタ研究本の決定版」とは思いません。

リーマン・ショック以前のことですが、この本にも登場する奥田元社長・元経団連会長が、”毎日毎日、年金問題ばっかりやってる番組のスポンサーからは降りてやろうかと思う”、という発言をしていました。

最近の報道でも、取り上げられるのはキャノンやいすづが圧倒的に多いと感じています。テレビ・新聞の報道よりも、ワイドショーの方が大胆に(ふつうに?)、トヨタ・ショックという言葉を使っているのではないでしょうか。

私が、この本が「決定版」ではないと思う理由は、なんというか、マイナスの部分には触れていないからです。なので、トヨタ社史の小説版を読んでいるような感じもします。

 


タグ:企業 自動車
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「こぞの冬」 木下杢太郎 [Shiika]

 

十一月の風の宵に
外套の襟を立てて
明石町の河岸を歩いたが
その時の船の唄がまだ忘れられぬ。
同じ冬は来たれども
また歌はひびけども
なぜかその夜が忘れられぬ。


 

今年も11月になって、肌寒さを感じるようになりました。

この詩を知ったのは、もう20年以上前になります。

「十一月の風の宵に・・・」と思い出すような、そんな夜が自分にもあったような気がして。この詩が醸し出す錯覚なのかもしれませんが。


木下杢太郎(きのしたもくたろう、明治18年8月1日 - 昭和20年10月15日)。詩人、医学者。静岡県伊東市生まれ。

 


「歳月」 司馬遼太郎 [Book]

佐賀の江藤新平。

明治新政府で参議、司法卿。まもなく、薩長閥(特に大久保利通)と対立して下野、佐賀ノ乱の首謀者として刑死、享年四十一。

アルイハ、狂人カ、と言われると、 「古来、事をなした者はことごとく狂人とよばるべき者である」と答えたという、才能と狂気の男の話です。

”(まるで抜き身だ)とおもった。副島はかねがね江藤に対し、鞘を脱した白刃を腰にさした男、という実感をもっていた。むきだしの鋭さが、他人をたおすよりさきに自分の身を傷つけるのではあるまいか。”

似たものどうしというのは、特に二人共に才能がある場合は、互いに相容れず、決して並び立たない。大久保利通と江藤新平は、そういう関係として描かれています。

明治新政府に不満な士族が充満し、ひと騒動ありそうな佐賀に、 「峠」にも登場した岩村高俊が権令(知事)として派遣されます。任命したのは大久保利通。

木戸孝允は、どうしてこんな難しい所に、選りによって岩村高俊のような傲慢で無思慮なやつを・・・と驚き、人事の変更を求めます。

大久保は、そんなやつだから使うのだ、という腹でした。

つまり、越後長岡で河合継之助を開戦に追い込んだ、岩村の傲岸不遜・無思慮ぶりを見込んだのだと。佐賀士族を挑発し、暴発させ、江藤もろとも早々に殲滅するには、これでいいのだと。

対するのは、維新前は「家の中で内職をしているか、藩命によって蟄居させられているか」で、「世間を知らないにひとし」く、「維新が成立し、かぞえて三十五になってから人臭い世の中におどり出、わずか五年目に司法卿になった」という江藤。

そして、事態は大久保の目論見どおりに進みました。

小説としては、江藤の短い活躍期間の最後、下野から刑死までの部分に重きが置かれすぎているかもしれません。人間の死に方、死に至る状況と、そこから遡ってみた人生、という風景。

その、あまりにも政治・政略的な騒ぎに満ちた最期と、田舎からぽっと出てきた男がわずか五年の間にやったこと、仕事の凄さ部分は、少し切り離して考えてみたい気がしました。

上下二巻、講談社文庫。


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Turmoil, Resilient [eigo]

最近のブッシュ大統領のスピーチから。

"We recognize that the turmoil in the financial markets is affecting all our citizens, all of us recognize this is a serious global crisis that requires a serious global response for the good of our people."

"turmoil"は、混乱、騒ぎという意味で、アクセントが頭にあるので、”たーもぅ”みたいに聞こえます。

currency turmoil : 通貨不安
emotional turmoil : 精神的動揺


同じスピーチの後半から。
Our economy is innovative, industrious and resilient because the American people who make up our economy are innovative, industrious and resilient.

その翌日のラジオ演説。
We have the strongest and most resilient economy in the world.

resilientは、弾力性のある、回復力のある、という意味。

直近のスピーチで何回も使っているところをみると、resilientを重要なキーワードにしてるようですね。
もう少し簡単な単語ないのかな、とブッシュさんも思ってるかも。
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「桜田門外ノ変」 吉村昭 [Book]

茨城県には伝説が二つあります。

江戸時代初期、佐竹氏が秋田に転封されるときに、きれいな人をみんな秋田に連れて行ってしまった。茨城県(常陸の国)に美人が少ないのはそのせいだ、というもの。
(だから秋田美人はもともと茨城の・・・というオチです)

もう一つは、まじめな話で、
維新のさきがけとして活躍した人物を何人も輩出したのに、最後は薩摩と長州にすべて持っていかれてしまった。
それは、幕末の早い時期に暴発しすぎて優秀な人間がみんな死んでしまったからだ、というもの。

司馬遼太郎氏もどっかで書いてましたが、これはかなり本当のことだと思います。

その最初の大暴発が桜田門外の変でした。
この作品、「桜田門外ノ変」は、水戸藩側から見た、有名なわりに詳しくは知られていない、幕末の大事件を描いています。

襲撃計画から実行の場面は、現代のテロの現場を目前にしているような迫力。

襲撃後の水戸藩士たちの逃避行の部分は、「彦九郎山河」、「長英逃亡」のような感じで、作者得意の描写が淡々と丹念に続きます。

水戸藩士の最後の暴発となった天狗党の乱については、「天狗騒乱」があります。
これもまたすごい作品なので、そのうち紹介するかもしれませんが、併せてお薦めです。

映画化の計画


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「落葉松」 北原白秋 [Shiika]

大正10年、「水墨集」所収。軽井沢の星野温泉入口に文学碑があるそうです。
四行 x 八節のうち、少しだけ引用します。

 
 からまつの林を過ぎて、
 
 からまつをしみじみと見き。
 
 からまつはさびしかりけり。
 
 たびゆくはさびしかりけり。


なぜか、秋になるとこの一節を思い出すのです。

二節目はこんなふうに続きます。


 からまつの林を出でて、
 
 からまつの林に入りぬ。
 
 からまつの林に入りて、
 
 また細く道はつづけり。


そして、五節目の静かなアクセント。


 からまつの林を過ぎて、
 
 ゆゑしらず歩みひそめつ。
 
 からまつはさびしかりけり、
 
 からまつとささやきにけり。


朗々と吟じる詩もいいですが、こんなふうにそっと呟くような詩には、やっぱり秋が似合うような気がします。

原文は四行 x 八節、三十二行。ネットでも簡単に見つかります。

タグ:現代詩 詩人

「箱根の坂」 司馬遼太郎 [Book]

『箱根の坂(上)(中)(下)』 講談社文庫、1984年。

上巻は、前半生がほとんど分からない早雲の京都時代を通して、室町時代、応仁の乱の話が続きます。

「すでに、のちの世で言うところの応仁の乱が進行している。
 いつはじまり、いつ終わったかということもないこの大乱には、主役がない。
 正義も名分もない。
 意味もなかった。・・・」 (上巻)

室町時代後半~応仁の乱を描いたものは少ないので、この部分も面白かったです。


作者は、早雲を、権謀術数を駆使した下克上の先達としてではなく、禅僧のように質素で地味な性格として、淡々と描いています。
たとえば、以下のような独白をするくらいなので、この作品では、めずらしく女っ気は殆どありません。

「もともとは一介の書生か、風来坊で人生をすごすつもりであった。理由はない。ただ、妻子を持ち、夫とか父とかよばれる男どもを見て、心に染まず、転し(うたてし)と思い、ときに見苦しいとさえ思ってきた。」(中巻)


早雲が、駿河に下向して興国寺城の城主となったのは四十五歳、小田原城と西相模を得たのが六十四歳、八十七歳で相模全円を平定し、翌年に病没。

八十を過ぎてからも戦陣に立っていたことになるので、生年については諸説あるようですが、
世に出てから四十年以上働き、待ち、また働き、しかも終わりを全うしたという点は間違いないようで、これだけでも類をみない存在なのではないでしょうか。
乱世の奸雄というくくりではなく、もう少し歴史的にきちんと評価されていい人物なのかもしれません。

小説としては長いですが、引っかかることなく、すんなりと読める話です。室町、戦国時代に興味がある方や、静岡・神奈川に土地勘がある方は特に楽しめると思います。
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